AI企業の選び方

AI支援会社との契約で確認したいこと|経産省のAI契約チェックリストから重要ポイントを解説

2026.09.14

この記事の要点

  • 渡すデータと受け取る成果物を具体的に決める。
  • AIの精度だけでなく修正費用と責任分担も確認。
  • 契約前にデータの返却と他社への引き継ぎ条件をヒヤリング。

AI支援会社との契約では、料金や納期以外に何を確認すればよいのでしょうか。その手がかりとして、経産省が公開している「AI契約チェックリスト」(PDF)があります。

実際に読んでみると、契約を確認する資料としては丁寧ですが、初めて読む担当者には「自社はどこから読めばよいのか」がつかみにくいと感じました。

44ページあり、利用と開発の両方を扱っています。「インプット」「アウトプット」から整理する構成も、普段の仕事で感じる疑問とは少し距離があります。

そこで今回は、社内マニュアルに答えるAIを外注する例に沿って、「渡した資料はどう使われる?」「別の会社へ引き継げる?」といった契約前に確認したい点を整理します。

経産省の「AI契約チェックリスト」とは?まず確認したい対象と使い方

経済産業省が2025年2月に公表したチェックリストは、法務担当者や弁護士だけでなく、事業部門の担当者が最初の論点整理に使うことも想定した資料です。契約書のひな形ではなく、提示された条件を検討するための手がかりと考えると使いやすいでしょう。

図表の文字が小さい場合は、画像を押して拡大できます。

経済産業省の契約チェックリスト 図8 データと成果物に関する契約条項の全体像。画像を押すと拡大表示

出典:経済産業省「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」11ページ

ツールの利用と開発の依頼では確認する範囲が変わる

契約チェックリストの7〜9ページ(ページ番号は紙面下部の表記)では、汎用的なAIサービスの利用、カスタマイズ、新規開発を区別しています。たとえば月額のAIツールを使う契約と、自社専用の仕組みを作ってもらう契約では、成果物や完成条件の確認が同じにはなりません。

導入支援にも、初期設定や研修だけを頼む場合と、検索機能やデータベースの開発まで頼む場合があります。「AI導入支援一式」というサービス名ではなく、依頼する作業と納品されるものを確かめましょう。

社内マニュアルに答えるAIなら、既存の生成AIに文書検索機能を組み合わせる方法が考えられます。本記事では、この構成を想定例として使います。

また、支援会社の先に外部のAIサービス提供者がいる場合、自社と支援会社の契約だけでは条件を把握しきれません。25ページでも、組み込まれるサービスの利用規約を可能な範囲で確認する考え方が示されています。

経済産業省の契約チェックリスト 図5 カスタマイズ型の契約関係。画像を押すと拡大表示

出典:経済産業省「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」7ページ

渡したデータは、どこまで利用される?

社内マニュアルには、作業手順だけでなく、取引先ごとの対応や社内だけで共有したいノウハウが含まれることもあります。ファイルを渡す前に、その内容が何のために使われるかを確認したいところです。

契約チェックリストでは、保護したい情報が契約の対象に含まれるかをA-1-1(12ページ)、利用目的と条件をA-3-1・A-3-2(14ページ)で扱っています。保存期間・消去はA-3-4(16ページ)、第三者への提供はA-4-2(17ページ)に対応します。

「学習には使いません」の先まで聞く

AIの学習に使わないとしても、回答を作るために外部サービスへ情報を送ったり、問い合わせ履歴を保存したりすることは考えられます。学習への利用、回答生成のための処理、ログの保存は別々に確認します。

28〜30ページも、汎用的なAIの学習に使う場合、自社向けのサービスに必要な範囲で学習に使う場合、学習に使わない場合を分けています。学習に使わないことだけで、情報管理の確認が終わるわけではありません。

経済産業省の契約チェックリスト A-3-1 データの利用目的。画像を押すと拡大表示

出典:経済産業省「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」14ページ

たとえばAnthropicのCommercial TermsのB項には、対象サービスの顧客コンテンツをモデルの学習に使わない旨があります。ただし、これはその規約が適用されるサービスの条件です。支援会社自身の保存や利用まで同じ条件になるとは限りません。

ファイルと会話履歴を分けて質問する

支援会社には、マニュアルと会話履歴を分けて質問すると、扱いの違いを確認できます。打ち合わせを想定して、質問例を作りました。

  • 当社のマニュアルは、回答生成以外の用途にも使われますか?モデルの学習や他社向けサービスの改善にも利用されますか?
  • マニュアルの全文、検索で見つかった部分、社員の質問は、それぞれどの会社のサービスへ送られますか?
  • 元の文書と質問・回答の履歴は、どこで何日間保存され、誰が閲覧できますか?
  • 再委託先を含めた管理体制と、削除できない記録がある場合の扱いを教えてください。

ログには、不具合の調査や不正アクセスの確認に役立つものもあります。41ページの4.5.3ではログ保存にも触れています。一律に「何も残さない」と決めるより、記録の種類、目的、閲覧権限、保存期間をすり合わせる方が実務に合います。

経済産業省の契約チェックリスト A-3-4 データの保持期間と消去。画像を押すと拡大表示

出典:経済産業省「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」16ページ

個人情報や取引先から預かった秘密情報を含む場合は、自社がその情報を渡せるかも確認が必要です。まず公開可能な文書やダミーデータで試し、提供条件が決まってから対象を広げる方法もあります。

作ってもらったAIや成果物は、自社でどこまで使える?

「当社向けに作ったシステムだから、自由に直せるはず」と思っていても、納品されるものや利用条件がそこまで含んでいるとは限りません。画面を使えることと、仕組みを受け取って改修できることは分けて考えます。

契約チェックリストでは、成果物の範囲がB-1-1(19ページ)、提供条件がB-2-2(20ページ)、利用条件がB-3(21ページ)、第三者への提供と権利帰属がB-4・B-5(22ページ)に整理されています。

経済産業省の契約チェックリスト B-3-2 成果物の利用条件。画像を押すと拡大表示

出典:経済産業省「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」21ページ

権利の名義だけでなく受け取るものを一覧に

社内マニュアルに答えるAIなら、質問画面のプログラム、検索の設定、AIへの指示文、文書の登録手順書などが納品物の候補になります。すべてが納品されるとは限らないため、必要なものを一覧にして相談します。

対象 確認したいこと 確認する理由
プログラム ソースコードの提供と自社・他社による改修の可否 修正を依頼できる相手が限られないか
設定・指示文 設定値やプロンプトの提供範囲と変更方法 回答の調整を自社でも続けられるか
文書・検索データ 元文書と加工データの出力範囲・形式 移行先で何を作り直す必要があるか
手順書 文書更新、障害対応、引き継ぎに必要な記載 担当者が変わっても運用できるか

納品範囲の相談例としてAI FIND編集部が作成。

支援会社が以前から持つ共通プログラムや、外部AIサービスそのものまで、自社のものになるとは限りません。32ページでも、新たな開発成果と既存の知的財産を区別する必要性が説明されています。

大事なのは、権利をすべて買い取ることではなく、自社が続けたい使い方に必要な権利と情報を確保することです。別会社へ保守を頼みたいなら、「第三者にコードを渡して修正してもらえるか」まで具体的に聞きましょう。

なお、加工した検索用データなどの扱いには、インプット処理成果を扱うA-6(18ページ)も関係します。支援会社の技術的なノウハウが含まれる場合もあり、加工物がすべて引き渡される前提では進めない方がよいでしょう。

期待した結果が出ないとき、費用と責任はどうなる?

提案時のデモでは答えられても、社内の文書で試すと答えが見つからないことがあります。このとき「想定外なので追加費用です」となるのか、合意した範囲の修正なのか。契約前に評価方法を決めておくと、話し合う材料がそろいます。

契約チェックリストのB-2-1(19ページ)は完成義務と検収条件、B-2-3(20ページ)は保証とその違反時の扱いを確認する項目です。契約の性質や求める成果の水準については、4.3.2(31〜32ページ)でも解説されています。

経済産業省の契約チェックリスト B-2-1 完成義務と検収条件。画像を押すと拡大表示

出典:経済産業省「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」19ページ

正答率の数字より先にテストの中身を決める

社内マニュアルの検索なら、普段寄せられる質問、答えが文書にない質問、閲覧権限によって回答を変える質問を用意する方法を勧めます。

単に回答が出るだけでなく、根拠の文書を示せるか、答えがないときに無理に作らないかも評価の対象になります。

使用する文書の版、質問の組み合わせ、合否の判定者をそろえ、どの状態なら納品を受け入れるかを決めます。「精度90%」という数字だけでは、何ができれば合格なのか伝わりません。

試作で実現できる範囲を確かめる契約なら、評価報告を受け取る段階と、本番システムを完成させる段階を分ける考え方もあります。「準委任」「請負」という名前だけで判断せず、その契約で約束する作業・成果・対応を読みましょう。

追加費用とトラブル対応は別々に合意する

修正が当初の費用に含まれるかと、障害時に誰が対応するかは別の問題です。費用と対応範囲を確かめる質問例も考えてみました。

  • 合意したテストで条件を満たさない場合、どの修正まで当初の費用に含まれますか。
  • 文書の追加や機能変更は、誰が見積りを承認してから着手しますか。
  • 外部AIのAPI利用料やサーバー代は月額費用に含まれますか。超過時の通知や上限はありますか。
  • 障害や情報漏えいが起きた場合、誰が連絡・調査・復旧を担当しますか。損害賠償の対象や上限、免責条件はどうなっていますか。

復旧を手伝う範囲と、発生した損害を賠償する範囲も別です。「保守対応あり」の一言で済ませず、対応時間や対象外の作業も確認します。責任条項の妥当性は、業務が止まった際の影響も伝えて、法務担当者や弁護士と検討してください。

契約を終えるとき、データやシステムを引き継げる?

今回の資料で、導入前に押さえておきたいと感じたのがデータの返却です。元のマニュアルが手元にあるから十分、とも言い切れません。利用中に蓄積した情報や設定を持ち出せなければ、移行先で準備をやり直すことになるからです。

データの返却や削除は、契約チェックリストにも確認項目があります。A-3-4・A-4-1(16ページ)は、契約終了時などの削除と、データを利用者へ提供する条件を扱っています。システムの引き継ぎには、前述の成果物の提供・利用・第三者提供の条件も関わります。

経済産業省の契約チェックリスト A-4-1 利用者へのデータ提供。画像を押すと拡大表示

出典:経済産業省「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」16ページ

返却できることと移行先で使えることは違う

元のマニュアルをダウンロードできても、検索用の設定や文書ごとの閲覧権限まで移るとは限りません。移行先で作り直す部分が多ければ、切り替えにも時間と費用がかかります。

返却対象とファイル形式、受け取り期限、移行作業の担当者・費用をセットで聞いておきましょう。データを受け取って確認する前に旧環境が消えないよう、返却から停止・削除までの順番も決めておきたいところです。

最低利用期間、自動更新、解約通知の期限も確認します。移行先が決まっても、すぐに解約できるとは限りません。

打ち合わせで使う確認表

打ち合わせ用に確認表を作りました。支援会社から回答をもらったら、合意内容と契約書・仕様書の該当箇所を書き留めてください。口頭の説明だけで終わっている項目も確認できます。

確認項目 支援会社への質問 回答・合意内容
データ利用 回答生成以外の利用と外部送信先は? 利用目的・対象データ・送信先を記入
保存・削除 元文書とログはいつ削除される? 保存期間・例外・確認方法を記入
成果物 何を受け取れ、誰が改修できる? 納品物・利用条件・第三者提供条件を記入
評価・修正 何を基準に受け入れ、未達ならどうする? テスト条件・修正範囲・費用を記入
運用費・障害 追加料金と障害時の対応は? 課金条件・承認方法・責任範囲を記入
終了・移行 いつ解約でき、何を引き継げる? 通知期限・返却形式・移行費用を記入

【FAQ】AI支援会社との契約でよくある疑問

秘密保持契約を結べば十分ですか?

秘密保持契約だけで、データの扱いや成果物の利用条件がすべて決まるとは限りません。秘密情報の範囲と利用目的、再委託先への開示などを確認し、開発・利用契約の条項と食い違っていないか見ます。費用や納品物、終了時の対応も別に確認が必要です。

支援会社の契約書をそのまま使ってもよいですか?

相手の書式を使うこと自体が問題なのではありません。提案された作業、自社が渡す情報、必要な利用範囲が反映されているかが判断の中心です。変更できない条件があれば、提供するデータを減らす、利用範囲を絞る、別の依頼先を検討するといった選択肢もあります。

契約チェックリストの24〜25ページも、契約条件だけでなく、運用でリスクを減らせるかなどを含めて判断する考え方を示しています。受け入れてよいか迷う条項は、その条項で困る業務の場面と一緒に専門家へ相談しましょう。

契約前の疑問を自社の言葉で残しておこう

契約書を一度に理解しようとするより、「このマニュアルを渡せるか」「別の会社でも直せるか」と、実際の仕事から質問を出してみてください。担当者が使い方を説明できるほど、支援会社や法務担当者も条件を具体化できます。

まずは確認表で答えが埋まらなかった箇所を、次の打ち合わせの議題にしてみましょう。合意した内容を契約書や仕様書に反映し、何を頼み、何が残るかを共有できれば、導入後の運用にも見通しを持って進められます。

契約内容を確認する際は、経済産業省の「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」も手元に置いておくと便利です。

※掲載図表は、同資料からAI FIND編集部が一部を抜粋しています

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