
この記事の要点
- 最初のAI活用は、繰り返しが多く人が仕上がりを確かめられる作業から。
- 業務記録で候補を比べ、既存ツールで改善できる作業も見分ける。
- 試行では確認・修正の手間も計り、業務全体で減った時間を見る。
AIを使って仕事の負担を減らしたいと思っても、どの業務から試せばよいかは迷うところです。最初の候補になるのは、日報の下書きなど、繰り返しが多く、担当者が仕上がりを確認できる作業です。
日報の作成と問い合わせへの返信なら、どちらから始めると効果を見込めるでしょうか。
作業にかかる時間だけでなく、AIを使った後の確認や修正の手間まで比べると、実際に負担を減らせそうな業務が見えてきます。
今回は日報や問い合わせ対応を例に、普段の仕事から候補を探す方法と、小さく試して効果を確かめる手順を紹介します。
今あるソフトで改善できる作業との違いも押さえながら、自社で最初に取り組む業務を考えてみましょう。
まずは回数が多くて手順が決まっている業務を選ぼう
一度の短縮が数分でも、毎日繰り返す作業なら、月単位ではまとまった時間になります。手順や完成形が決まっていれば、AIを使った結果を普段の仕事と比べやすい点もあります。
日報を例に考えてみます。商談メモから顧客の要望や次の対応を拾い、決まった欄に書き直しているなら、その下書きはAIで試せる部分です。商談の担当者なら、できあがった日報を見て、事実と違う箇所や抜けにも気づきやすいでしょう。
この場合にAIへ任せるのは、メモを決まった項目に整理し、文章にするところまでです。提案内容や顧客との約束は担当者が判断する、と分けておけば、普段の仕事の中に取り入れやすくなります。
業務名を小さな作業に分けると候補が見つかる
自分の仕事から候補を探すときも、日報のように具体的な作業まで分けて考えるのがおすすめです。「営業」「総務」といった大きなくくりでは、使う資料も判断する内容も多くなります。「何を基に、何を作るか」まで絞ると、AIに任せたい内容を説明しやすくなります。
身近な業務では、例えば次のように切り分けられます。
- 問い合わせ対応なら、確認済みの商品説明を使って返信文の下書きを作る。
- 社内会議なら、会議メモから決定事項と担当者、期限を抜き出す。
- 総務の案内なら、確定した日時や申請方法を基に周知文を整える。
こうした要約や文書作成は、IPAが整理しているAIの活用例にも含まれます。同僚に作成を頼むつもりで、材料と仕上がりの見本を並べてみると、AIに任せたい範囲も整理しやすくなります。
1週間の業務記録で時間のかかる作業が見えてくる
候補がいくつか見つかったら、どこに時間がかかっているかを比べてみましょう。1件ずつ時間のかかる問い合わせ対応と、短時間でも毎日発生する日報作成では、どちらの負担が大きいでしょうか。
こうした比較に役立つのが、回数と所要時間の記録です。ひとまず1週間、作業を終えたときに、何を何件処理し、何分かかったかを残してみてください。件数と1件あたりの時間を掛けると、その作業にかけた時間を合計できます。
次の表は、記録の付け方を示す架空の例です。件数は部署全体の合計で、1件の時間には作成と確認に関わる人の作業時間を含めています。
| 作業 | 週の件数 | 1件の時間 | 週の合計 |
|---|---|---|---|
| 商談メモを日報に整える | 25件 | 12分 | 5時間 |
| 商品の仕様にメールで答える | 10件 | 15分 | 2時間30分 |
| 販売データを管理表へ転記する | 40件 | 3分 | 2時間 |
表では、1件の対応が長い問い合わせよりも、日報作成の方が週の合計時間は長くなっています。回数を含めて比べると、日々の小さな作業にも改善の余地を見つけられます。この合計を今の負担として記録しておけば、AIを試した後にどれだけ減ったかを比べる基準にもなります。
作業時間と待ち時間は分けて残す
時間を記録するときに分けておきたいのが、作業をしていた時間と、完了までの待ち時間です。例えば上司の承認を半日待っていても、その間に別の仕事ができるなら、半日ずっと作業していたわけではありません。
作成や確認に使った時間を合計し、承認待ちは別の欄に残すと、負担のかかっている箇所を見分けやすくなります。書類を作る時間を減らしたいのか、承認までの日数を短くしたいのかによって、手を入れる工程も変わるためです。
長引いた作業には、理由も一言添えておくと役立ちます。「商品資料が見つからなかった」「例外の値引きで確認が必要だった」と分かれば、文章を早く作るだけで改善するかどうかも考えられます。
毎月の請求のように、記録した週に発生しなかった仕事は、過去の処理件数や担当者の記録を合わせて見積もります。普段の1週間だけで決めず、月末や繁忙期にも目を向けてみると、候補の見落としを減らせます。
削減時間・手順・データ・失敗リスクで候補を比較
業務記録で時間のかかる作業が分かったら、次はAIを取り入れる準備のしやすさも比べます。同じだけ時間がかかっていても、必要な資料がそろっている業務と、資料集めから始める業務では、試すまでの負担が違うためです。
候補を絞るときは、減らせそうな時間に加えて、手順や使えるデータ、誤りがあった場合の影響を見ておくと判断しやすくなります。
| 項目 | 確かめること | 試しやすい状態 |
|---|---|---|
| 削減時間 | 準備や確認を含めても時間が減りそうか | 作成に時間がかかり、確認は短時間で済む |
| 手順 | 必要な入力と完成条件を説明できるか | 書式や確認項目が決まり、例外を区別できる |
| データ | 利用を認められた材料がそろうか | 必要な文書が読める形でまとまり、内容も新しい |
| 失敗リスク | 誤りを誰がいつ見つけ、どこまで影響するか | 送信や登録の前に担当者が確認して直せる |
表の「データ」で違いが出るのは、回答の根拠となる資料のそろい方です。例えば総務の案内文は、日程や申請方法が確定していれば、それを材料に下書きを試せます。一方、問い合わせへの回答に使う資料が古く、取引先ごとの条件も記録されていない場合は、先に情報を整理する時間を見込んでおく必要があります。
もう一つ、時間の短縮効果と分けて見たいのが「失敗リスク」です。社外への送信や正式な登録の前に、担当者が誤りを見つけて直せるかを確かめます。支払いの実行や取引条件の確定は人が判断する工程として残し、その手前の下書きや情報整理から試すと、影響する範囲を限定できます。
「人が確認する」を担当者と確認項目まで具体化する
人の確認を組み込むときは、誰が何を見るかも決めておくと、導入後の負担を見積もりやすくなります。日報なら商談担当者が顧客の要望と次の対応を確かめ、顧客向けメールなら送信担当者が金額や納期を原資料と照合する、といった分け方です。
ここで見たいのは、文章が読みやすいかだけでなく、元の情報と合っているかです。生成AIは自然な文章でも事実と異なる内容を出すことがあるため、資料や実際のやり取りと照らし合わせる確認を残します。
資料を用意する段階では、AIへ入力してよい情報かどうかも確かめます。会社が利用を認めたツールでも、すべての社内情報を扱えるとは限りません。顧客情報や未公開の見積りは、会社のルールと利用するサービスの条件を確認してから使います。
出力の照合や入力情報の扱いは、IPAの教材でも確認事項として挙げられています(「ツール利用」17ページ)。データの扱いがまだ決まっていない段階なら、実際の書式を模した架空のデータで操作を試す方法もあります。
その作業は本当に自動化すべき?
候補を比べるときは、今の手順を変える方法も一緒に考えてみてください。同じ情報を何度も書いているなら、入力先をまとめるだけで作業を減らせる可能性があります。
例えば、日報の内容を毎回会議資料へ写している場合です。会議で日報をそのまま参照できれば、写す工程をなくせるかもしれません。実際に資料を受け取る人と使い方を話してみると、減らしてよい項目や、共通化できる書式を見つけやすくなります。
決まった転記と文章の整理では使う道具が変わる
続ける必要のある作業については、普段使っているソフトの機能も調べてみましょう。販売データを決まった管理表へ移す処理なら、業務ソフトの取込機能や表計算の関数で対応できる場合があります。処理の条件や計算式が明確なら、そのルールどおりに動く機能が候補になります。
これに対して、商談メモのように人によって順序や言い回しが違う文章から、必要な内容を拾って整理する作業には、生成AIを使う余地があります。何を読み取り、どんな形に整えたいかを説明できると、必要な機能も選びやすくなります。
同じ業務の中で道具を分けても構いません。たとえば報告書の売上集計は業務ソフトで行い、担当者のメモを文章に整える部分に生成AIを使う、といった組み合わせです。既存ソフトに必要な機能があれば、追加の契約や入力作業を減らせる可能性もあります。
2〜4週間の試行が本導入の判断材料になる
試す業務を1つに絞れたら、普段の仕事の中で使い、準備から確認までの手間を確かめてみましょう。毎日ある作業なら、まずは2〜4週間を目安に、担当者と対象を限定して試す進め方がおすすめです。何度か繰り返すうちに、手直しが必要な箇所や、使いにくい手順を把握しやすくなります。
月に一度しかない作業なら、期間だけで区切らず、実際に処理する機会も考えておきます。過去の書類を使い、通常のものと例外的なものを試す方法もあります。
試す前には、できあがった書類を受け取る人とも、どこまでできれば業務で使えるかを話しておくと安心です。日報なら、作成する担当者と上司で、次のような条件を共有できます。
- 顧客の要望、次の対応、期限を元のメモと照合できる。
- メモにない内容を補っていないか確認し、分からない項目は未確認と分かる形で残す。
- 入力の準備から修正、上司の確認まで含めた時間が、これまでより短くなる。
この条件で試していくと、メモが短すぎる日報や、複数の案件が混在する日報では、手直しが増えることも考えられます。途中から人が書き直した分も記録に含めておけば、普段の業務に近い負担を見積もれます。
確認と設定調整を差し引くと何時間残るか
使い続けるかを社内で相談するときは、試行の結果を月単位に換算すると、どのくらい負担を減らせそうかを伝えやすくなります。その際は、書類を作る時間に加えて、AIの設定を調整する時間も含めておきます。
業務記録の例にあった日報を月100件作ると仮定し、AI利用後の時間を仮に置いて計算してみます。1件の時間は、関わる担当者と上司の作業時間を合わせたものです。
| 項目 | 現在 | AI利用後の仮定 |
|---|---|---|
| 月の対象件数 | 100件 | 100件 |
| 1件の作成・確認 | 12分 | 6分 |
| 月の作成・確認 | 20時間 | 10時間 |
| AI利用に伴う月の設定調整 | 0時間 | 2時間 |
| 月の合計 | 20時間 | 12時間 |
表の「1件の作成・確認」には、AIへ渡すメモの準備、生成中に他の仕事ができず待つ時間、確認と修正を含めます。この仮定では、作成・確認で月10時間減っても、設定調整に2時間かかるため、業務全体で減る時間は月8時間です。試行を始めるための初期設定や操作を覚える時間は、毎月の負担と分けて記録します。
減らせそうな時間が分かったら、月額利用料や導入時の費用と合わせて検討します。時間が空いても、そのまま人件費の支出が減るとは限らないため、残業を減らせるのか、翌日の商談準備に充てられるのかまで考えておくと、導入後の効果を具体的に説明できます。
【FAQ】自動化する業務の選び方でよくある疑問
社員が数人の会社でもAIを使う意味はある?
少人数の会社でも、繰り返す作業の負担を減らせるなら、AIを試す意味はあります。例えば、一人で営業と事務を兼ねている場合は、日報の下書きを短時間で済ませ、翌日の商談準備に時間を回す使い方が考えられます。人数だけで判断せず、減らせる時間と、その時間を何に使えるかを合わせて検討してみてください。
社内データが少ないとAIは使えない?
日報の下書きや案内文の作成なら、手元のメモや確定した情報を材料に試せるため、最初から大量の社内データを集める必要はありません。ただし、何を作るかによって必要な材料は変わります。顧客への返信なら、回答の根拠となる商品資料や取引条件を用意し、情報が足りない部分は担当者が確認して補う形にします。
IT担当者がいない会社はどこから準備すればいい?
まずは業務を担当する人と、できあがった書類を使う人で、時間がかかる作業と必要な仕上がりを整理してみましょう。候補選びの段階では、プログラミングの知識よりも、普段の手順を具体的に説明できることが役立ちます。社内システムとの接続や顧客情報の利用が必要な業務は、設定を始める前に、情報管理の責任者や外部の専門家へ確認しておくと安心です。
負担が残った工程から次の改善を決めよう
実際にAIを試して思ったほど時間が減らなかったときも、どこに手間が残ったかが次の判断材料になります。例えば、日報の下書きは早くできても上司の修正が増えたなら、必要な記載項目をもう一度そろえると改善するかもしれません。特定の案件だけ手直しが多ければ、その案件は従来の手順へ戻し、AIを使う対象を絞る方法もあります。
運用を続ける場合は、書式が変わったときに誰がAIへの指示を直すか、うまく動かないときはどう作業するかも残しておくと安心です。別の担当者にも同じ手順で試してもらえば、操作を教える手間や、説明の足りない箇所を確かめられます。
候補選びに迷ったら、まずは普段作っている書類を1つ、受け取る人と一緒に見てみましょう。必要な項目を確かめ、作成や確認のどこに時間がかかるかを話してみると、最初に試す範囲を絞りやすくなります。